藤村シシンぶろぐ


 

2008. 11. 13
      ギリシャ悲劇を演るなら、私は…!

(→しょっぱな裸の男どもですみません。オエビ絵を二枚表示すると、どう配置されるかのテストで…。一応ディオニュソスとアポロンです。あれ?アポロンの方を先に描いたんですが、ディオニュソスの方が先(左)に表示されちゃうんだ。) 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 
 
山田先輩「――なあなあ、提案なんだが… 
来年の大学の学祭でさ、俺たち古代ギリシャ史のみんなで有志で「ギリシャ悲劇」演らないか?!」 
 
――何何っ?!そのわくわくする話っ!?
 
よぉーし山田!まずはお前のプランを聞かせてもらおうか…!! 
 
山田「フフフ…藤村、お前にピッタリの役がある…!
『イオン』に出てくるクレウーサだ。黒川にイオンを演らせるから、お前クレウーサやってくれ!!」 
 
私「エ?!クレウーサって…
ギリシャ神話中で最もアポロンを憎んだ女ですよね?!それのどこが私にピッタリ…!?」 
 
山田「いいから!今から『イオン』のクレウーサの台詞を一緒に読み合わせよう!!俺、イオンの台詞やっから!」 
 
 
私(クレウーサ)「え〜……『七弦の竪琴をつまびいて、 
      うるわしき声にて歌う神よ、 
      おお、レトの子(アポロン)よ! 
      
      かつて貴方は、まばゆい金髪をきらめかせて、 
      私の元へとおいでになった。 
      サフランを摘む私の腕をひしと捉えて、 
      あなたは無理やりに暗い岩穴の床へと――。 
 
      『お母様、助けて!』 
      そう泣き叫ぶのも聞かず、 
      貴方はためらいも無く、愛の快楽を放った。 
   
      無残に岩穴の床に打ち果てられしこの身、 
      そしてわが腹に宿りし子も朽ち果てて――! 
 
      あなたに助けてほしかった! 
      なのにあなたは ただ竪琴を抱いて 美しい歌を吟じるばかり!』」 
     
  
山田(イオン)『おお、ロクシアス様(アポローン)、あなたともあろう方が!女を無理やり犯して、ひどい仕打ちをするなんて!子を孕ませてから、死ぬのもかまわず打ち捨てるなんて!あなたともあろう方が…ロクシアス!!』 
 
私(クレウーサ)『わが憎しみの先はレトの子ぞ! 
      大地の中心デルフォイに御座を占めて 
      神託を告げたまう神! 
      私から女の喜びも母の喜びも奪った! 
 
      憎まれよ、アポローン! 
      その身を生みしデロスの島からも、 
      その髪を飾るダフネー(月桂樹)の緑の葉からも、 
      憎まれよ!憎まれよ、アポローン!』
 
 
 
――私、初の舞台デビューでこれはハードル高すぎだろ。 
ちょっと待って、私、アポロンのこと
「金髪ブタ野郎」とは言えるけど、たとえ演技でも「デロス島からも月桂樹からも憎まれろ」なんて言えねえ…!こんな…アポロンが一番大切にしているものを攻撃するようなマネはできねえ!私、アポロン好きだもん!! 
 
山田「だからこそ、この役はお前にピッタリなんだよ…!
アポロンを一番愛するお前が、アポロンを一番憎む女を演じることで、演技に深みが出るはずだッ!!」 
 
何スの仮面何影先生だよお前は!! 
 
 
私「…それで?私にクレウーサ、黒川にイオンを演らせて、山田先輩は何を?」 
 
山田
「もちろん俺は最後に出てきておいしい所を全部かっさらってく処女神アテナを演る。」 
 
殺すぞ。 
 
 
そうか…みんなでギリシャ悲劇とかほんと楽しそうだけど、一つ大問題あんじゃん! 
ギリシャ史かき集めれば、10人くらいにはなるだろうけど、女が私しかいないじゃん!! 
 
だから、女が二人以上出てくる劇だと、
必然的に誰かが女装をするハメになる!! 
ちょっと待って、『イオン』の主な登場人物を洗い出してみると―― 
 
 ・伝令神ヘルメス(男) 
 ・イオン(アポロンがクレウーサに生ませた息子:男) 
 ・
クレウーサ(女) 
 ・クストス(クレウーサの夫:男) 
 ・クレウーサの召使(男) 
 ・
アポロンの巫女(女) 
 ・
処女神アテナ(女) 
 
――。ものすごい緊迫した場面で、いい歳こいた男が女装して「私はアポロンの巫女!」とか出てきたら全然悲劇じゃないでしょ。喜劇でしょ。 
 
『イオン』やめた方がいいんじゃないか! 
確かに、ストーリーが二転三転して、ハラハラして本当に面白いけど!! 
「今夜、デルフォイのアポロンの神殿に火を放とう!」のくだりとか!アポロンの神託が外れるところなんか、私も今読んでもドキドキしちゃうけどっ! 
女役が足りないし、私にクレウーサを演るのは無理だ…! 
 
 
山田「じゃあお前、どんな役やりたい?」 
 
「ディオニュソスっ!!ぜひ!ぜひディオニュソスをやらせて頂きたい!!」 
 
私っ一度でいいから、
ディオニュソスみたいに、汚い言葉で罵られたり、髪の毛切られそうになったり、縛られたり、ムチで打たれたりされてみたい! 
いや、私はされたくないけど、ディオニュソスとしてならされてみたいっ! 
 
山田「俺は、カッコイイ役ならなんでもいい!黒川は台詞がほとんど無ければ、舞台上がってもいい、って言ってたんだけど!」 
 
 
――で、みんなの希望を突き合わせてみた結果、 
むしろ
「ギリシャ喜劇」なんじゃないかと。 
 
私「――喜劇の『蛙(かわず)』ならみんなの希望にそえるんじゃないですか!?」 
 
私が
ディオニュソス、 
山田先輩が冥界の裁判官
アイアコス、 
それで黒川さんが
ハーデスやれば完璧じゃん!!ハーデス様ほとんどセリフ無いよ!! 
 
山田「でもハーデスと一緒に登場するペルセポネーはどうするんだ!?」 
 
 
「そんなん黒川ハーデスがダッチワイフを小脇に抱えて参上すりゃあいいんですよ!!」 
 
↑こんなカンジで。爆笑王じゃね?こんな奴。 
 
 
――っつーかそれ以上に問題のシーンがあるわよ。 
 
私ことディオニュソスが、アイアコスにムチで打たれながら、アポロンの名前を叫ぶシーンよ! 
 
――ごめん、
多分そこでディオニュソス…興奮してわけ分かんなくなっちゃう可能性あるわよ。 
 
だって、アイアコスにムチ打たれながらアポロンアポロン叫ぶなんて、そんなの私の夢だもん!! 
ディオニュソスのセリフの
「もっと!もっと打ってくれ!!」とか、マジ見とけ!私が渾身の演技を見せてやるよ!! 
 
 
――と、まあ、多分この計画は冗談で終わってしまうとおもうのですが、でも、ほんと面白そうだなぁー!! 
 
衣装作ったりするのとか超楽しそう! 
私、ハーデス様の服とか超がんばるよー! 
長い黒いカツラとか用意してさ! 
 
アポロン出てくるなら、衣装とか超作りたい! 
金髪のカツラ用意して、真っ赤なマントと金の竪琴!!うわあーっ楽しそう! 
 
それで背景もデルフォイがそこにあるかのごとくに綺麗に描いてさ! 
あと、ギリシャ劇だと仮面をかぶって演じなきゃいけないから、仮面も作ってさ…! 
 
それで、
ディオニュソスの格好して、ディオニュソスの仮面をかぶって!そんで『このディオニュソスが、人間にとって最も優しい神であり、同時に最も恐ろしい神であることを思い知らせてやるわ…!』言いてぇーー!!超言いてえ!! 
あの狂気に満ちた笑い声で叫んでみたい!一度でいいからディオニュソスになり切ってみたいよっ!! 
 
『劇神ディオニュソスが支配する舞台の上では、人間は誰にでもなれる。 
神を非難する者にも、また神自身にも!』
って感じ!まさに!! 
 
 
そうそう、劇はもともと、観客を楽しませるものではなく、
ディオニュソスを楽しませるものだったので、ディオニュソスの祭儀の時にか上演できなかった。 
で、その祭儀っていうのは11月〜12月に行われたから、学祭の時期にもぴったりじゃん…! 
やりてえー! 
 
 
あ、そうだ!これだけ。 
『イオン』はアポロンに対する罵詈雑言の嵐で、アポロンがサンドバッグ状態ですが、これを作ったアテナイ人が本当にアポロンを嫌っていた、というわけじゃないです。 
現実のアテナイ人がいかにアポロンに愛されようとしたか、いかにアポロンを自分のものにしようとしたか、そしてそれが無駄に終わったか…。その背景を知ると、「アポロンが憎い!」という言葉が
「本当はあいしてる!」っていう叫びに聞こえてくる!(笑)。 
 
また、アテナイ人にとってご先祖様であるクレウーサがアポロンに犯された、というのも、アテナイ人が比較的新しく作った神話です。「アポロンは俺たちの先祖を犯して関係を持ったんだ!だから俺たちのことをもっと愛してくれ!」というアテナイ人の勝手な願望が神話に反映されているだけ。 
だからむしろレイプされてるのはアポロンの方だろ! 
 
もう一つアポロンを弁護するためにギリシャの劇中の言葉を引用すると、 
 
『ゼウスでもポセイドンでも、そしてアポロンでも、犯した女にいちいち謝罪を渡してたんじゃ、神殿の宝物庫がとっくのとうにすっからかんになっとるわ!』 
 
――もうこれが真理なんだろ。 
 
 
 
あ、それと前回書いた黒川さんの「オルフェウス神話」。 
貴重なものを頂いてしまったので、私も日本語に訳されていない、
アポロン讃歌集「パイアーン」を訳してお返ししておきました。 
オルフェウス讃歌なんか研究してる奴には、おそらく永遠に読むことがないであろう、最も輝かしい讃歌だ!! 
いいか!アポロン讃歌はオルフェウス讃歌などに負けはしないのだ!!貴様に見せてやる、讃歌とはこういうものだ!! 
 
――という気持ちを込めて送っておきました。 
そして、「むしろ私たちで、日本語に訳されてないギリシャ神話を訳して……印税でガッポリ儲けねえ?」 
みたいな話も出た(笑)。 
 
ギリシャ語にはたくさんの方言がありますが、私は
アイオリス方言ならできます。(↑のアポロン讃歌もアイオリス方言だから訳せたのよ…) 
黒川さんは
ドリス方言とアルカディア方言ができると言っていたので、二人で力をあわせれば、ギリシャの大部分は網羅できる! 
でも、黒川は別にオルフェウスの専門じゃないし、私もアポロンの専門じゃないし、っていう…「アポロンの専門じゃない」なんて、自分で言ってて泣ける…! 
とりあえず私、もっとギリシャ神話の勉強がんばらなきゃと思った。 
 
あーなんかやりたい事いっぱいあるのに、計画倒れで終わっちゃうのって人生損してるよな!絶対な!! 
 
 
黒川邸突撃レポートは次回あたりにかけると思います! 
まとめるにあたって、どうしても手に入れなきゃいけない資料が2、3、あるんだ…! 
 
――拍手ありがとうございます!! 
お返事は続きに書きます!少々お待ちを…! 
  
 



藤村シシン
古代ギリシャ・ギリシャ神話研究家。
高校で出会ったアニメ『聖闘士星矢』がきっかけでこの道へ。東京女子大学大学院(西洋史学専攻)修了。

◆著書『古代ギリシャのリアル』(実業之日本社)。◆ NHKカルチャー講座講師。◆2020年オリンピック採火式NHK生中継内、古代ギリシャ語同時翻訳。 ◆平成28年 東京国立博物館『特別展・古代ギリシャ』公式応援サポーター。 ◆UBIソフト『アサシンクリード・オデッセイ』公式コラボ ◆古代ギリシャナイト主催。 など。

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