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2009. 5. 14 「ギリシャ神話とは何だ?」
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…なんというか…「ギリシャ神話」を勉強する上での一番の問題点って、 ギリシャ語には「神話」という言葉が無い、ってことだと思うんだ。 そう、私、今までごまかしごまかしやってきたけど!! 古代ギリシャには「神話」にあたる言葉がないし、古代ギリシャ人は一度も「ギリシャ神話」なんて言葉を使わなかった!! 私、気付かないふりをしてたけど、これって大問題っぽくね!? たとえば、今、何かの拍子にばったりアポロンに会ったとしたらよ!? アポロン「で?お前は何を勉強してるんだって?」 私「ギリシャ神話です!」 アポロン「…えっ?『ギリシャ神話』とは何だ?」 …私、アポロン自身にそんなこと言われたら絶対立ち直れない。 「ギリシャ神話とは何だ?そんなものはギリシャにはない。」…そう言われたらさあ…!私、実体のないものを愛してるんじゃないかと…!! やっぱり言葉が存在しないことは、それ自体「ない」ってことなんだろうか? 例えば、「萌え〜!」っていう言葉って最近作られたけど、 それまでは「萌える」って感情自体無かった? うーん!どうなんだろう… でも、古代ギリシャには「冥界」って言葉も無かったけど、冥界は確かにあった。それに、「ハーデスのそば」とか「ハーデスの館」とか「ハーデスの王国」とか「地面の下」とか、遠回り表現で「冥界」を指す言葉はあったしなあ…。 ギリシャ語で、我々がいう「神話」に一番近いものは、 「mythos」(ミュートス/英語の「myth(神話)」の語源)だけど…。 「ミュートス」という単語は、広義の「話し」をさす言葉で、 歴史的事実の話にも、昨日起きた話にも、作り話やほら話にも使われる。 つまり、古代ギリシャ人にとっては、 「ちょっと俺の話(ミュートス)聞いてよ〜!昨日こえだめに落っこっちゃってさー!もう全身クソまみれだよ!!」 って話も、 「輝けるアポローンの君が、かつてこの地を訪れた名高い話(ミュートス)を語ろう。」 って話も、同じレベルの話で区別なんか無かった、ってことじゃねえか!!? すっごいヤバイと思うんだよねこれ!! つまり、古代ギリシャ人にとって、「ギリシャ神話」っていうジャンルなんか無かった、ってことなんだろうか!? アポロン「――神話とは何だ?」 そんなのこっちが聞きたいよ!! ああっアポローンの君、あなたは全てを見通しておられるお方だ。だったら、教えてほしい。どうしてギリシャ人は、あんなにたくさんの神話を作っておきながら、それに名前を与えることはしなかったんですか? 神々の華やかな恋愛譚や、英雄たちの冒険譚!! 「神話」だろ!?「ギリシャ神話」だろ?! …ああ、アポローンの君ならこの質問にどう答える!? アポロン「…我々神や英雄たちのミュートス(話)は、ミュートス(事実)であって、ギリシャ人にとっては歴史や過去のミュートス(逸話)にあたるものだ。まあ、多少人間たちのミュートス(作り話)も含まれているようだが。」 ――くそぉおお〜〜「ミュートス」って言葉が幅広すぎるううう!! でも…考えようによっては便利な言葉なのかもしれない。 「ミュートス」と言われて、それを「事実」でとるのか、「作り話」でとるのかは受け手しだい、ってことだもんな。 ギリシャ神話もそんなカンジだったのかも。 「神話とは何だ?」 …この質問に対する最も簡潔な答えは、 「神話とはミュートスです。」 …これかもしれない。 ある人にとってはミュートス(歴史的事実)であり、ある人にとってはミュートス(作り話)。 総じて広義のミュートス(話された事)を指すもの。 だけどつまんない答えだなー!! 私だったら…うーん、私だったら…夢見すぎと言われるかもしれないけど、私だったらこう答えたい! 「神話とは、文学、歴史、科学、芸術、音楽、哲学…すべての学問の父です。」 「太陽をアポロンが馬車で動かしている」なんて馬鹿馬鹿しい! 科学の人間は、そう言うかもしれない。 「アポロンが戦争に参加した」なんて作り話だ! 歴史の人間はそう言うかもしれない。 だけど私はこう言いたい、 お前たちの父の名を言ってみろよと!! 「神話は、科学や哲学や歴史によって淘汰された」ってよく言われるけど!! そんなの冗談じゃない!! 確かに神話よりも、科学や哲学や歴史の方が優れている!! だけど、そういったすぐれた学問を育てたのは誰だ!? 「太陽はなぜ動くのか?」「人間はなぜ生きるのか?」「我々の祖先は何をしてきたのか?」 こういう問いに最初に答えを見出そうとしたのは、 科学でも、哲学でも、歴史でもない! 神話だ!! ――と、まあありえないくらい熱く語ってしまっているのですが… いやー…何年かギリシャ神話と付き合ってきて、まざまざと感じるのはさ〜… 神話に対する風当たりの強さなんだよぉ!! 特に、歴史学からの神話に対する迫害はすさまじいものだぞ…! 「神話なんか作り話でしょ?」から始まって「歴史は事実をあつかう学問だから、神話は論外。」まで私もいろいろ言われた!! くっそー!! 歴史から神話に父の日のネクタイを送られてもいいハズなのに、侮辱の言葉を投げかけられるなんて! そんないわれは一ミクロンもねえよ!! 歴史よ、お前の父の名前を言ってみろ!! お前を育てたのが誰かを言ってみろ!! 神話だろーッ!! ――神話を真剣に学ぶ意味とか、誇りとかってこれじゃないか!? そして、私にとって「なぜギリシャ神話を愛するのか?」って問いの答えもこれだ! 「神話はすべての学問や芸術の父だから。」…私はそう信じてる! まあ、アポロンがカッコイイから、っていう単純な理由もあるけど!!(笑) うーん、今日はマジメな話ですみません! っていうか私はすごいマジメな人間なのよ!!普段全然チンコとか男根とか言わないよ?! ってミュートス(話)は全然説得力ねえけど!!(笑) …まあ、これから半月くらいは延々黒川さんとのくだらねえ死闘が始まるかな?と思って、小休止に真面目な話でした。 全然関係ないですが、明日から始まる映画、「天使と悪魔」が楽しみでしょうがない!! 前に小説読んだ時は、「こ、こんな面白い小説があったのか!」とすごい感動したので、映画版本当に楽しみです!! 拍手ありがとうございます!! お返事少々お待ちを!!明日発表なんだ…
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藤村シシン古代ギリシャ・ギリシャ神話研究家。 高校で出会ったアニメ『聖闘士星矢』がきっかけでこの道へ。東京女子大学大学院(西洋史学専攻)修了。
◆著書『古代ギリシャのリアル』(実業之日本社)。◆ NHKカルチャー講座講師。◆2020年オリンピック採火式NHK生中継内、古代ギリシャ語同時翻訳。 ◆平成28年 東京国立博物館『特別展・古代ギリシャ』公式応援サポーター。 ◆UBIソフト『アサシンクリード・オデッセイ』公式コラボ ◆古代ギリシャナイト主催。 など。
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