心地よい秋の午後、久しぶりに映画を観に行った。シネマテーク。名古屋で有名なミニシアターです。 観た映画は2007年ホセ・ルイス・ゲリン監督・脚本のスペイン作品「シルビアのいる街で Dans la Ville de Sylvia」。 フランスの古都ストラスブールのカフェ。スケッチブックを開いた青年が、他の客の様子を熱心にデッサンしている。時折書き込まれる言葉が、彼の内なる声と響き合う。混み合ったテラスで、談笑する人びとの間を縫うように視線を投げ掛ける。どうやら彼は誰かを捜しているようだ。さまよう視線が、ひとりの女性に釘付けになる。立ち去る彼女の後ろ姿に引き寄せられ、あたかもストーカーのように、彼もまた、カフェをあとにするのだが……。 街頭でつま弾かれるバイオリンの調べや歌声、路面電車の駆動音や、石畳に響く靴音まで、どこからか聞こえる様々なノイズが美しく反響し、セリフらしいセリフもないままの物語世界に溺れる。古い街並みを共に歩んでいるかのような目眩に似た錯覚を起こし、秘められた過去と深い慕情が、さわやかなストラスブールの空気とゆるやかに溶け合い、ざわめく。 過去の記憶を心に秘め、ストラスブールを訪れて6年前に出会った美しい女の面影求めて、さまよい探し歩く男。どこか女々しいような、でもやはりそういうものかと思う。そこで出会う女性は、どこか凛々しく、今を生きている。スケッチブックのページが風で舞い、めくられてゆく。風のように過去は流れ、時は過ぎてゆくようだ。 ストラスブールの街の空気感が映像に上手く表現され、そこに訪れた感覚になる。僕は、以前にその街に訪れた事もあり、懐かしくもある。まるでひとり旅をしている感覚にもなる。