藤村シシンぶろぐ


 

2008. 8. 24
      錬金術師の弟子と、伝説のハーデスソング

――夏休み中なので、古代西洋史の集まりが連日続いているんですが…、 
 
山田先輩「おい、大変だーっ!!今日の集まりに、あの
『トリスメギストスの弟子』が来ることになったぞぉー!!」 
 
みんな「「…はあ?『トリスメギストスの弟子』…??」」 
 
トリスメギストスって…人類で唯一『賢者の石』を手に入れたという、あの伝説の錬金術師・ヘルメス=トリスメギストス!? 
ギリシア神話のヘルメスより3倍(=トリス)優秀(=メギストス)とかいう想像上の人物でしょ!? 
どういうこと?それの弟子って?? 
 
山田「なんだよお前ら!○○大学の黒川(仮)のこと知らないの!?
古代の西洋魔術を研究してる黒川だよ!すごい怖いって評判の!」 
 
なんでも噂では、 
『トリスメギストスが書いたという長大な魔術書「ヘルメス文書」をギリシャ語で読破した男』、 
『それゆえ仲間内からのあだ名は「トリスメギストスの弟子」』、 
MPは999だが、HPは3、 
『ちょっと小突かれただけで肋骨が三本折れた』 
 
「最後の方なんか違くないですか…?だいたい、オカルトっぽいことを研究してたって、怖い人だとは限らないんじゃ…」 
 
 
――と、そこに舞い上がる一陣の風! 
 
振り返ると、
「お、お前はルーラを使ってやってきたのか!?」というレベルで忽然と姿を現した、そう!その男こそが! 
 
 
黒川
―…こんにちは…今日はどうぞよろしくお願いいたします。黒川です…」 
 
――見た目の雰囲気は冥王ハーデスに暗黒のオーラをふりかけたカンジ、 
上から下まで真っ黒な服装
、 
そしてTシャツの胸元にラテン語の白ぬき文字で、 
 
 
「Roma tibi subito motibus ibit amoR」 
(お前が愛するローマは、突然の動乱の中で滅びるであろう) 
 
 
 
……ゴクッ。 
 
みんな
((怖ぇええ〜!!なんだこの文章…しかも右から読んでも左から読んでも同じだ…!!完全な回文だコレ…!怖ぇ〜!もうなんかあらゆる意味で怖ぇええ――!!)) 
 
…とにかく、一通りの挨拶と自己紹介を交わした後、 
「それでは、また後で」とくるっと背を向けた黒川。 
その背中に白ぬきのギリシア語で、 
 
 
ΝΙΨΟΝ ΑΝΟΜΗΜΑ ΜΗ ΜΟΝΑΝ ΟΨΙΝ 
(顔だけでなく、その罪も洗い清めよ) 
 
  
↑※回文。 
 
 
みんな
((このTシャツ…前も後ろも右から読んでも左から読んでも同じだ…!!)) 
 
 
私「…ちょ、ちょっと山田先輩…!
どうしてあの人、Tシャツの文字がどこから読んでも同じなんですか!?」 
 
山田「あいつ、記号論にも精通してて、あーいう回文とか、アナグラムとかが好きらしいんだ。あとヘビメタなテイストとか…。…そうそう、神話関係も詳しいだろうから、お前、後で話しかけてみたら?」 
 
私「エエッ!?」 
 
山田「大丈夫だって!
賢者の石とか、ヘビメタとか、回文の話とかふったらものすごい食いついてくるって!」 
 
その中に私の得意分野は一つとして無し!! 
賢者の石・ヘビメタ・回文って! 
完全に
ノーサンキュー・セットだろうがよそれ!! 
 
「私、『ハリー・ポッターと賢者の石』くらいしか知りませんし、回文のレパートリーも「たけやぶ焼けた」「上から読んでも山本山、下から読んでも山本山」しかないです!!」 
 
山田「いや、それでいけるって!
『ども〜!好きな言葉は「竹やぶ焼けた」、改名するなら「山本山」!藤村で〜すっ!』つって突撃しろ。」 
 
…殺されんぞ。 
 
 
 
でも確かに、黒川さんが神話詳しいなら、色々お話を伺いたいと思い、 
次の休憩時間に思い切って話しかけてみました。 
 
私「…く、黒川さん…えーと、
その回文、素敵ですね。」 
 
――何言ってんだ私… 
 
黒川「ああ…これ、古代最後の賢者シドニウスが作った回文なんです。完璧な回文なのに、完璧に韻を踏んだ韻文でもあるんですよ。
藤村さんも、回文にご興味が!?」 
 
いえ、無いです。 
 
 
…でも、そんなこんな話してるうちに分かったのは、 
この人…もしかして案外いい人なんじゃ…? 
 
黒川「――それじゃあ、藤村さんも神話がお好きなんですね。僕もです!ちなみに、誰が一番好きですか?」 
 
(良かった…「怖い怖い」とか言われちゃってるけど、それは見た目だけなんだな…。)「…あ、私は冥界神話というか…ハーデスが大好きです。」 
 
黒川「…あっ、じゃあ!!」 
 
私「?」 
 
 
黒川
♪ギャァアアア〜〜!ペルセフォネ〜〜!!ペルセフォネぇえええーーー!! 
 
……んっ? 
 
黒川
「WOW♪WOW♪トゥっギャザ〜・イン・アンダワールド〜♪ 
 
何だ!?何が始まったんだ!? 
この絶叫は一体全体何!? 
 
 
黒川
ハーデス・エンっ・ペルセフォっネぇー〜♪アァァあ〜〜♪ 
 
「く、黒川さん!?ちょっと…黒川さーんっ!?」 
 
黒川
ペルセフォっネぇー〜♪イン・アンダワー〜〜〜♪アァァあ〜〜♪」 
 
「黒川さあぁぁぁぁーーん!!もういいです!もう分かりました!何が分かったか分かりませんが、分かりました!!ほんとすみません!!もうけっこうです!! 
 
 
黒川「あ…ご存知ありませんでした?この曲?
『THERION』という北欧のメタル系のバンドの曲で…よくギリシャ神話をモチーフにした曲を作ってるんで、僕は大ファンなんです。…これはハーデスとペルセフォネーの曲で…藤村さんも好きそうかと…」 
 
 
まずそれを最初に言えよっ!! 
順序が逆だろ!!おまえ自身も回文かよ!! 
 
私「そうだったんですか…すみません、ヘビメタは詳しくなくて…。これ、どんな歌詞なんですか?『ペルセフォネー』しか聞き取れなかったんですけど」 
 
黒川「あっ、今iPodに入ってるんで聞いてください!」 
 
 
『Dark Venus Persephone』 
(※私の訳なので間違ってたらすみません) 
 
冥界の奥底 ハーデスとペルセフォネーは共に座する 
ケレスの娘よ、その嘆かわしい悲運 
エリシオンの野の果実を口にした時 
御身の命運は決まった 
 
冥界のペルセポネーよ 
 
冥界の奥底 永遠にそれがペルセポネーの宿命 
夏だけがその身を自由にする 
だが夫の元に連れ戻されることになろう 
ザクロの実を味わった時 
その命運は決まった 
 
冥界のペルセポネーよ 
 
冥界の奥底 
氷と雪の奥底 
キュアネの泉の奥底に ペルセポネーの帯だけがたゆたう 
 
 
「……黒川さん、さっきほんとにこの曲歌ったんですか?めちゃくちゃ綺麗な曲じゃないですか!」 
 
黒川の歌声だと呪詛にしか聞こえなかったけど、綺麗で超いい曲じゃん!!さっきの歌い方はお前のオリジナルか!?黒川リミックスバージョンだったのか!? 
 
黒川「いいですよね、この曲!?特に最後の部分、僕大好きなんです!
『キュアネの泉の奥底に ペルセポネーの帯だけがたゆたう』っていう所!」 
 
私「ああ、分かります!分かります!ハーデスがペルセポネーを連れ去った時に、このキュアネの泉から冥界に入ったんですよね!そこに、処女性の象徴である帯が沈んでる、っていう描写が…綺麗ですね!」 
 
黒川「そうなんです!『THERION』は他にもたくさんいい曲あるんですよ!良かったら聞いてみてください!」 
 
…アレ?やっぱ普通にいいやつじゃん黒川…!! 
 
 
私「ところで、さっきから気になってしょうがないんですけど、
その回文Tシャツそういうのってどこで買うんですか?ギリシャですか?」 
 
 
黒川「あ、僕が作りました。」 
 
手作りTシャツかよ黒川――!! 
 
お前、仮にも大錬金術師ヘルメス=トリスメギストスの弟子なら作るべきはTシャツじゃなくて賢者の石だろーーっ!? 
 
 
 
…そんなわけで、黒川さんは…独特だけどすごくいい人でした! 
ちなみに、黒川さんの研究してることはオカルトじゃないそうです。 
ヘルメス学(占星術+錬金術+魔術)とグノーシス主義哲学との関係…みたいなことをやってるそうです。 
 
みんな「「なんだよ!
じゃあお前、卑金から純金を生み出したりはできないの!?」」 
 
黒川「そんなことをやってると思われてたんですか僕…」 
 
でも、あらゆる「言葉遊び」に精通していて、古代ギリシャ語の色々な回文や多義文やなぞなぞを教えてもらって、本当に勉強になりました。 
『大錬金術師の弟子』のあだ名は伊達じゃねえよ! 
そんなわけで、最終的には、 
 
私&黒川
「「♪っトゥギャザ〜・イン・アンダワー〜〜♪ハーデス・エン・ペルセフォネー〜〜♪お〜イエ〜!」」 
 
山田先輩
「…神話学の奴と神秘学の奴を一緒に置いとくとロクな事になんねえな。」 
 
 
 
●ちなみに、黒川さんに教えてもらった
『THERION』は、すごく有名なバンドだったみたいで、ほんと知らなくてすみません。 
ttp://japan.megatherion.com/ (日本版公式サイト) 
↑歌詞も載ってます。ギリシア神話とか、エジプト神話とか、ラヴクラフト(クトゥルー神話)がらみの歌が多いみたいです。 
ttp://japan.megatherion.com/sirius.html#persephone (←ペルセポネーの歌詞。普通にめちゃくちゃ綺麗な曲) 
 
●それと、私は錬金術師ヘルメス=トリスメギストスについては全然知らないので、間違ってる見解があったらごめんなさい。
ギリシャ神話のヘルメスとエジプト神話のトートが合体した人物、とかその程度の知識しかないです。でもなんか今でもすごくファンが多そうな気がする(笑)。 
 
 
 
拍手ありがとうございます!! 
いつもお返事が遅くなってすみません!! 
お返事は、昨日の日記分に書いてあります!  
 



藤村シシン
古代ギリシャ・ギリシャ神話研究家。
高校で出会ったアニメ『聖闘士星矢』がきっかけでこの道へ。東京女子大学大学院(西洋史学専攻)修了。

◆著書『古代ギリシャのリアル』(実業之日本社)。◆ NHKカルチャー講座講師。◆2020年オリンピック採火式NHK生中継内、古代ギリシャ語同時翻訳。 ◆平成28年 東京国立博物館『特別展・古代ギリシャ』公式応援サポーター。 ◆UBIソフト『アサシンクリード・オデッセイ』公式コラボ ◆古代ギリシャナイト主催。 など。

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