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2012. 2. 3 【後半】新春かくし芸大会:藤村人形一座 『ソクラテスの弁明』
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※前日の日記から続いています。 裁判長「では被告人。君が神を信じている、という事を証明しえる証人はいるか?君の弁護に立つ者は?」 ソクラテス「おります」 メレトス「嘘をつけ!!そんな奴どこにもいない!!――裁判長!被告の証人召喚を却下し、量刑判断の審議に移るよう求めます!!」 ソクラテス「いいえ!裁判長!確かに証人はおります!! 私の潔白を証明する、十分信頼できる証人が…私にはおります!」 裁判長「では、それはどこの誰か!誰を証人として召喚するのか!」 ソクラテス「――デルフォイのアポロンを。 私は、己の身の潔白の証明として、 神アポロンを証人に立てる!!」 ザワザワ…!! ザワザワ…!! 裁判長「静粛に!!静粛に!!ソクラテス!神を証人に立てるだと!?――君はアポロンを信じていない、という罪で訴えられているのだぞ!何と言う侮辱!なんという身の程知らずか…!!」 メレトス「アテナイ人諸君!これではっきりした!この男は、神を神とも思っておらぬ!死刑だ!私は死刑を求刑する!!」 「そうだ、死刑だ…!」、「神を信じていない!」 ソクラテス「神を信じていないのはどちらだ!!アテナイ人諸君、目を覚ませ!」 裁判長「もはやどのような弁明をもってしても、そなたの罪はぬぐえぬ!」 ソクラテス「勘違いするな。私は死など恐れてはおらぬ!私は自分のためではなく、そなたたちのために弁明しているのだ。 すなわち、私の活動は神によって支持されたものであって、私の邪魔をするのは、アポロンに弓引くのと同じ事。ゆえに私にこのような真似をして、神の怒りがこのアテナイに降り注ぎはせぬかと、そなたたちを案じて私は今、弁明しているのだ!」 裁判長「なんという…なんという傲慢か!ソクラテス!頼む、どうか今すぐその言葉を撤回してくれ!」 ソクラテス「アテナイ人諸君、私は諸君を愛している。だが私はいっそうアポロンを愛し、従うであろう――私の言葉は変わらぬ!たとえ死の運命に脅かされようとも! 私の証人および弁護人はアポロンである!私の行いはアポロンに命じられてのことであり、私に罪を被せるのは神への反逆行為も同然!涜神罪で訴えられるべきは諸君の方だ!! ――以上で私の弁明を終える!」 裁判長「もはや情状酌量の余地も無い――ソクラテスに死刑判決を下す!!牢にひっ立てよ!!」 「死刑!死刑!」、「背徳者!」、「消えろ!ソクラテス!!」 ソクラテス「ああ、もはや去るべき時が来た―― 私は死ぬために。諸君は生き長らえるために。 ――だが私たち両者のうち、どちらがより良い運命に出会うのか―― ――それは、アポロンの他に知る者がいない。」 ・ ・ ・ プラトン「本来は、死刑判決が下されるような罪ではなかった…――だがいくつもの偶然が重なった。法廷での駆け引き、裁判の早さ、そしてソクラテス自身の弁論…――」 子供A「………でも、アポロン様は?アポロン様はどうしてソクラテスを助けてくれなかったの?」 子供B「そうだよ!神様なら、牢の中からソクラテスを逃がすこともできるでしょ!?」 プラトン「――……『死を逃れる事は困難ではない。むしろ悪を逃れる事こそ遥かに困難だ。』…師はそうおっしゃっていた。――」 ・ ・ ・ プラトン「…ソクラテス!ソクラテス!!」 ソクラテス「なんだ、お前か、プラトン。今日も辛気臭い顔してるなお前は。」 プラトン「師が死刑になるというのに、ピクニックフェイスでニコニコやって来れるわけないでしょうが!! ソクラテス。幸運にも、死刑は一ヶ月間延期される事になりました! 今はちょうどアポロンの誕生祭の一カ月前。この一ヶ月間は、穢れを嫌い、全ての死刑執行が保留になります! これをアポロンの神助といわず何といいましょう! さあ、ここから逃げるのです!」 ソクラテス「いいや。死から逃れる事が、アポロンの神慮とは思えない。」 プラトン「エエッ!?今度は何を…」 ソクラテス「プラトン…お前、『イリアス』読んだ事あるのか?アポロンは死をもたらす神だぞ。彼と深く関わった者は、死なざるを得ない定め。昔の英雄たちのようにね。」 プラトン「……」 ソクラテス「むしろ神は私の死に意味を与えて下さった。私はアポロンを信じて死ぬ。神の言葉に従って死ぬ。――死に意味があるということは、生に意味があったということ。これ以上の喜びがあるかね?」 プラトン「……貴方は…死が怖くはないのですか…?」 ソクラテス「――白鳥は死ぬ間際にひときわ美しい声で鳴く。人々はそれを死ぬのが怖くて鳴くのだ、と言う。 だが私の考えでは違う――白鳥は嬉しいのだ。 主人であるアポロンの元に帰れる事が。 白鳥はアポロンに仕える鳥だからね。 私も同じように、魂がアポロンの元に帰れる事を嬉しく思う――ゆえに、最後にひときわ歌い喜ぶのだ。友よ。」 プラトン「ソクラテス…」 ソクラテス「『♪デロスにおわすアポローンの君、ごきげんよう。 同じくアルテミスの姫君にも、ごきげんよう。名高き神々よ。』 ――私が作った最初で最後の『アポロン讃歌』だ。こいつをどう思う?」 プラトン「下手クソです。とてつもなく。…白鳥ならもっとうまく歌います…。」 ソクラテス「ははは、じゃろうな!私も詩作には向いておらん、と思っとったとこだ!……ではプラトン、私と問答しよう。最後の瞬間までだ!」 ・ ・ ・ プラトン「――ソクラテスが正しかったのか、正しくなかったのか。それは誰にも分からない。 それは永遠に謎のままとして残るであろう…遥か何千年先の未来にも。 だが、私は彼の知恵と高貴さを考えると、あの神託に心を重ねずにはいられない。 『人間の中で彼よりも自由な者はおらず、 正しい者もおらず、 節度ある者もいない。―― 全ての人のうちでソクラテスこそ最も賢き人。』 ――このたった一言。 たった一言なれど、他ならぬ貴方がおっしゃったのだ。 ソクラテスに哲学の光を射かけた、他ならぬ貴方が―― ――…アポロン。」
【ΑΠΟΛΟΓΙΑ ΣΟΚΡΑΤΟΥΣ】 アポロギア・ソークラトゥース <終劇> 特別協賛: 山田先輩(ソクラテス人形提供) 黒川さん(哲学知識)
………………………………………………………………………………… ――もうね…全然うまく語り切れてないんだけどさ…!!これなんだよ…! たった一言なんだよ!?『ソクラテス弁明』通して、アポロンはたった一言しか喋ってないんだよ!!「全ての人のうちでソクラテスこそ最も賢き人。」!!……この一言! たった一言でソクラテスを駆り立て、あるいはアテナイの民衆のまで巻き込んで、世界中を光で照らすような!! もう、最初から最後まで、全部アポロンの意思が働いてるかのような――たった一言で!! これなんだよ…!これなんだよ!! 私が大好きなアポロン!! 歴史で、文学で、哲学で、もうこの一瞬ほど面白い瞬間はないんじゃないかって! 宇宙でこれ以上面白い瞬間ないんじゃないかって!! そう思わせてくれるほどの眩いばかりの一瞬…!! 人間が哲学を始めた瞬間――『ソクラテスの弁明』!! 昔、私は大学の哲学の授業でこの話を最初に聞いた時、 感動して号泣しました。一発でアポロンを好きになりました…! そして同じ授業で、宿敵・黒川さんも同じく号泣していた…! それで、二人で話してたんです。 「この話って、難しい講義を何時間も聞いてないと感動できない話なんだろうか。」 「自分なりに、分かりやすくアレンジするとしたら、どういう手法で語るか?」 あの時の他愛も無い話に、私なら今、こう回答する!!――「人形劇だ!」って…!! そういう事で、2012年・新年一発目は絶対にこれをやりたかった…!!私のベスト・オブ・アポロンを!――アポロンに恋した瞬間を…!『ソクラテスの弁明』を!! 私がいつも凌辱の限りを尽くしたり、クリスマスデートでこねくり回したりしてるアポロンと今回のアポロンが同じアポロンと思うと、ほんと意味分からないけど…!(笑) で、せっかくなので人形劇の舞台裏も見て頂きたい! とにかく、あり合わせのもので舞台装置作るのがもう本当に楽しくて! 一幕のデルフォイ神殿 ↑幕の後ろをこういう風にして、ランプつきのアロマディフューザーでアポロン像を照らして、ライト+スモークとか…! 写真じゃまったく分かりませんが、ちゃんと月桂樹のアロマ焚いたりして本当にノリノリでした! 裁判所の背景も!アテネのアクロポリスが途中でアポロンのお立ち台になる所とか…すごく考えたんだぜ! 全員集合。 文章、画像共に分かりにくい所多々あったと思いますが、 楽しんで頂けてたら嬉しいです! 散らかりすぎの部屋。 ――と、いうわけで、明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いいたします! ……2月3日の日記の最後でそれ言っちゃう!!?という感じで本当に申し訳ないのですが!(笑) 昨年はどうもありがとうございました。 今年もよろしくお願いいたします! 私の近況ですが、今年は元旦から「山田先輩VS黒川・ギリシャ神話早押し対決」が拝めたり、しょっぱなから色々楽しい事が目白押しの毎日です。 バレンタインも…もちろん黒川さんに色々やる予定です!!(笑) …………………………… 拍手どうもありがとうございます! お返事は12月24日分まであります!! ※それと、私のアドレスにメール送れないよ!という方がいらしたのですが、どうしても送れないようでしたら、お手数ですが、拍手で頂戴する事はできますか?一押しで1万字送れるので、ご利用頂ければと思います! ………………………… ★以下、『ソクラテスの弁明』に関するちょっと専門的な追記です。 ■プラトンの『ソクラテスの弁明』をベースにしていますが、 ・プラトン『クリトン』 ・クセノポン『ソクラテスの弁明』 ・アリストファネス『雲』 ・ディオゲネス・ラエルティオス『ギリシア哲学者列伝』 を合わせて自分好みにしています。 ■史実では、ソクラテスはデルフォイには行っていません。カイレポンだけです。 ■裁判の進行はすごく簡略化、一部変更しています。 ■専門的な言葉は避けています。「無知の知」とか、色々単語を省いてあります。
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藤村シシン古代ギリシャ・ギリシャ神話研究家。 高校で出会ったアニメ『聖闘士星矢』がきっかけでこの道へ。東京女子大学大学院(西洋史学専攻)修了。
◆著書『古代ギリシャのリアル』(実業之日本社)。◆ NHKカルチャー講座講師。◆2020年オリンピック採火式NHK生中継内、古代ギリシャ語同時翻訳。 ◆平成28年 東京国立博物館『特別展・古代ギリシャ』公式応援サポーター。 ◆UBIソフト『アサシンクリード・オデッセイ』公式コラボ ◆古代ギリシャナイト主催。 など。
お仕事のご依頼: euermo★gmail.com (*をアットマークに変えて送って下さい)
書籍『古代ギリシャのリアル』発売中。 ★よく出てくる宿敵「黒川君」については →【黒川wiki】をご参照下さい。
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