エペメリス・シシナス・フジムラス


 

2008. 10. 18
      ローマ vs ギリシャ、神話描写対決 〜ハーデス様カーセックス疑惑をめぐる一考察〜
+拍手お返事

『ペルセポネーの姿を目にとめた瞬間、 
その一瞬で冥王は恋に落ちた。 
 
たちまち彼は彼女を奪い去る――それほどに一瞬の恋。 
 
彼女は驚いて、悲しげな声で仲間を、 
わけても母親の名を呼び続ける。 
 
そうしながら、着ている服が上から引き裂かれたので、 
集めた花が、解けた下着からこぼれ落ちた。 
 
こんな風に、せっかく摘んだ花を無くしてしまった事こそが、 
何よりも彼女の悲しみを誘ったのだ。 
まだ幼さの残る乙女の、なんという無垢な心。』 
 
   
――ああっもうさすが「マスター・オブ・ラヴ」と謳われたローマの詩人・オウィディウスの文章よ…!! 
「彼女を一目見ただけで、ハーデスはオチンチンがカチンコチンになって訳わかんなくなっちゃいました」ってだけのシーンをどうしてここまで美しい文脈で表現できるのよ!!
 
 
なんなんだよ、もー!ローマ人がこんな美しく神話を書くからさ、 
ギリシャ神話が全部ローマに持っていかれちゃうのよね! 
まったく何やってんだよギリシャ人は!!お前たちの神話だろっ!! 
 
――なんて思っているところを、ローマ史の西野先輩が、 
 
西野「ローマではな、
『処女を殺してはいけない』っていう法律があるんだよ。だから、ハーデスは処女のペルセポネーを冥界に連れて行くことができない。…これがどういう意味か分かるな? 
 
つまり、ハーデスは彼女を冥界に連れ去る馬車の上でヤった!! 
これは歴史上初のカーセックス!!
 
わははは!ローマ版のこの神話はギリシャ人の書けなかったカーセックスを見事に書ききったのだぁ〜〜っ!!」
 
 
 
アッタマ来た!! 
どうせローマが一番なんだろ!?要は!?ローマが正しいんだろう、全部!!  
生まれた時からチンコ剥きやがってよ!  
心の底で
「どうせギリシャ人なんか全員包茎」みたいなことを思ってんだろ、どうせアイツら!!  
 
ギリシャみたく「ヤリチンも童貞も関係ねえ!俺たち全員包茎同士!みんなで協力してペルシャ食い止めっぞ!!」っていう一体感を味わったことがねぇからさぁ、あーゆー神話が書けるんだろ、アイツら!? 
 
そういう性格だから「カーセックス!」とか言って興奮できるんだろ!?
 
そんなんじゃねぇよ、ギリシャは!!ギリシャ神話は…!!
 
 
 
――ということで、今からハーデスとペルセポネーの神話を例にあげて、ローマ版のギリシャ神話と、ギリシャ版の神話を徹底的に比較します!その中で、
一体ギリシャ人の書くギリシャ神話のどこがダメなのかを検討してみたいと思います! 
 
まず冒頭の、ハーデスがペルセポネーを連れ去るシーン。 
ローマのオウィディウスがあそこまで美しく描いたシーン…特に、
「ペルセポネーにとっては、服が破かれたことより、花を無くした事の方が悲しかった」のところなんて、なんていうか、彼女の純粋さとかを上手く表現しつつ、これから彼女の純潔が奪われることも暗示してて、もう完璧よ!! 
 
――このシーンを、よ? 
じゃあギリシャ人はどう書いたか、って話でしょ!? 
 
<ギリシャ人側の描写> 
 
『ペルセフォネーの叔父であり、多くの者を治め、 
多くの者を迎える神にして、多くの名を持つクロノスの御子(=ハーデス)が、 
不死なる馬を御し、嫌がる乙女を 
無理やりにさらっていったのであった。』
 
 
 
――だからお前たちはダメなんだよ。 
 
ハーデス様にビビるあまり、「ハーデス」という名を出さずにいかにハーデスを表現するかでイッパイッパイになっちゃってんのよっ!! 
 
しかも、「多くの多くの」言いすぎだろ!! 
それじゃあハーデス様の褒めポイントが「とにかくいっぱい持ってる!」って事だけだと逆に吐露しているようなモンだっ!!
 
 
お前たちがそんな事うだうだ言ってる間に、オウィディウスは
「ディス(※ハーデスのラテン語読み)一語で済まして次の話題に行ってるのよっ!! 
そんなことだからギリシャ神話がローマ人に持ってかれちゃうんだよ――っ!!
 
 
 
まあ、このシーンだけ見るとローマの圧勝かもしれませんが… 
じゃあ、もうちょっと前のシーンも見てみよう。 
 
まずは、ハーデスがペルセポネーに恋をする直前までの描写です。 
ローマのオウディウス版は――エトナ火山の噴火にともなう大地震から始まります。 
 
『(前略)――すると、地震が起こり、 
静まり返った冥界の王者さえも、飛び上がって不安を覚えた。 
 
もし今の地震で地面に大きな裂け目ができて、 
そこから日の光が差し込んだりでもしたら―― 
亡者たちが驚いて怖がるかもしれぬ」』
 
 
 
一番ビビってるのはお前さん自身じゃね?という点は置いといて、 
もうなんだろ、この…
「亡者のことも心配してる優しいハーデス様」っていうの!? 
「ああこの人デートで歩道歩くときは、車道側を歩いてくれそう!」ないし、「トイレ入った後は便座を下げておいてくれそう!!」だろ!――アポロンだったらぜってぇこんな事しねえ!!この気配りはほんとすごい! 
 
しかも、 
 
『――この厄災
(=日が差し込んで亡者が怖がる)を恐れた冥王は、 
暗き冥界を出ると、黒馬にひかせた車に乗って、 
用心深くシケリアの地底を見て回った。』 
 
自分で行っちゃう!! 
「トイレの電球切れたから替えといて」レベルの仕事を社長自ら行っちゃう!!
 
部下に行かせるんじゃなく、冥界の王みずから…! 
 
ハーデス様、すっごい部下想い!!もしくは正直冥界ではハブられてるかのどっちか!! 
 
 
――さて、ローマ側がここまで魅力的なハーデス像を打ち出してきているのに対して、 
じゃあギリシャ側は、というと、 
 
  …特に描写は無し、っていう。
 
 
あのねえ、すっごい重要じゃん!?なんでハーデスが地上に出てきたか、ってのは! 
 
なのにギリシャ版の神話だと、その点は完全スルーで、完璧にハーデス様はいきなり地面から飛び出して来た人!! 
 
ペルセポネーが4tトラックだったら、かわしきれずに轢いちゃって、完全にペッチャンコになっちゃってるよそんな男!! 
 
 
この後も、ローマ側が、『暗い冥界の岩影にいるハーデスが、日のさす花畑にいるペルセポネーを見つける』、という見事な光陰の対比で冒頭のシーンにつなげているのに対し、 
 
ギリシャ側は…まあ、その花畑に、 
ハーデスが彼女をひきつけるために、
一輪の水仙の花を咲かせるわけですが… 
 
一説では、その水仙は……ハーデスの男根の暗喩です、と。 
ペルセポネーを見てオギンオギンになっちゃったハーデス様の男根です、と。
 
 
 
そんなもんを暗喩してるヒマがあるなら他に喩えるべきものがあるだろーッ!! 
いい歳こいた男のカチンコチンの男根を可憐な花に喩えている場合じゃないのよっ!! 
 
ああ〜〜っそんなことしてるからだ!! 
そんなんだから全部ローマに持ってかれちゃうのよっ!! 
今ギリシャ神話だと思われてるものなんか全部ローマのオウィディウスが作ったものじゃんか!! 
そんなことしてるから、ギリシャ神話がローマのものになっちゃったのよ!! 
 
 
――と、まあ、ここまでギリシャ側をボロクソに言ってしまいましたが… 
私はそれでも、ギリシャ側の方の神話の方が好きです。 
 
「ハーデス」という一単語すらビビって口に出せずに、遠まわし表現しちゃうのも、こいつらが本当にハーデスのことを信じてたからよ! 
その気持ちがなくなっちゃえば、神話なんかただの物語よ!
 
 
ローマ人は、もちろんギリシャ人ほど「ハーデス」を信じていたわけじゃないから、あそこまで完璧で美しい神話の物語が書けたのよ。 
だけど、それができずに、ハーデスの遠まわし表現でうだうだやってるギリシャ人が、私はとても好き。 
 
 
そして、オウィディウスの神話ももちろん同じくらい好きです。 
これで円満解決…とはいかないわよ。
一つ重大な問題が残ってるわよ! 
 
てか、マジでローマ側のハーデス様ってカーセックスしたのかよ!? 
 
「ローマでは、処女は殺してはならない」って確かにそうだもんな…! 
だけどさ、
「馬車」っていうけど、屋根があって、完全な個室になってて…ていうあの「馬車」のことじゃないのよ!? 
サンタのソリみたいな奴よ!?全然「カー」じゃないわよ、「カー」じゃ!!
 
 
え?ちょっと待って、今、オウィディウスの神話読み返したけどさ… 
ハーデス様、御者ナシで一人で来てるよね、これ!? 
 
右手で馬の手綱を操って、左手でニャンニャン、だけどオチンチンは一輪の花、ってどんな大道芸師よ!! 
 
無理無理!絶対無理!それは!! 
西野の「カーセックス説」完全に敗れたり!!
 
 
だいたい、古代の馬車って意味わかんないくらい揺れるから、馬を操ってなくても事に及ぶなんてのは無理だろう…。 
「でも、だったらペルセポネーの服を破く意味が無いじゃん」とか言われたけどさ、もう、元のラテン語を読んで御覧なさい、と! 
 
ハーデス様が能動的に破ったんじゃない! 
二人でもみ合ってる内に偶然破けちゃった、ってニュアンスよ!!
 
ハーデス様的には「あっ!スミマセン、服破けちゃいました!!」だよ!決してヤる気満々で破いたわけじゃない…と信じたい!!
 
 
 
まあ、分かりませんけどね、 
男根を一輪の花に喩えられてるような男の考えなんか。 
 
だけど、ギリシャ側、ローマ側、多少の差異はあるにせよ、 
ハーデス様が
「世界中を敵に回しても彼女を自分のものにする!」 
という態度で描かれてるのはすごくいいなあと思います。 
 
そして、なぜこんな話をし出したのかというと、 
今の時期は、古代ギリシャでもハローウィーンというか、冥界祭りがある季節だからです。 
 
多くの者を治め、多くの者を迎える神にして、多くの名を持つクロノスの御子! 
ペルセポネーといつまでもお幸せに!
 
 
 
(あっ、ちなみに、最初に置いてある絵の、
『不死なる神々も、不死なる人間も、その声(=ペルセポネーの叫び声)を聞いたものは誰一人いなかった。』という文章は、ギリシャ側の描写です。ギリシャの描写も情緒があっていいですよね。でも、この後に『二人の姿を見ていたのは、太陽(ヘリオス)だけだった。』と続くので、背景を夜にしてしまったのは本当に失敗でした…。 
ああ〜っいつかこのシーンを18禁の漫画で描きたい!いつか絶対書く!!) 
 
 
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藤村シシン
古代ギリシャ・ギリシャ神話研究家。

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2008. 10. 24 神話をクソ真面目に描いてみる....
2008. 10. 20 おまけ:ローマ vs ギリシャ ....
2008. 10. 19 拍手のお返事(10月17、18日)
2008. 10. 18 ローマ vs ギリシャ、神話描写....
2008. 10. 13 アポロン&ハーデスになぞらえ....

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